お客さま第一は戦略にあらず

日本経済新聞を読んでいたら興味深い記事を見つけました。

「お客さま第一」は戦略にあらず

筆者は「お客様第一」という考え方を否定しているわけではない。だが、これを戦略としてとらえるには、大きく三つの点で無理がある。

●極端に言えば「がんばれ」と叫んでいるだけ

まず、言葉の持つ意味があまりにも広すぎる。このため、社員が具体的な行動に移しにくい。例えば、お客様のニーズを商品開発に生かす、お客様からコールセンターに集まった苦情を基に顧客応対を改善する、お客様の購買動向を分析し、マーケティング活動を展開する、といった取り組みは、いずれも「お客様第一」の活動であると位置付けることができる。

つまり、突き詰めると企業活動におけるほとんどの取り組みが「お客様第一」に基づくものであると見なせる。こうなると「お客様第一」という言葉は、何の意味も持たなくなってしまう。

本来であれば、「お客様第一」という方針に沿って、「わが社はここにポイントを置く」「重視する戦略の優先順位はこうだ」といった事柄を明確に打ち出すべきだろう。そうしないと、社員は何も実践できない。

こう指摘すると、「それは現場が考えることだ」と反論する経営者がおられるかもしれない。だが、戦略を分かりやすい形にブレークダウンして から、詳細なやり方を任せる方法もあると思う。「お客様第一」としか言わないのは、極端に言えば、「がんばれ」と叫ぶだけで何をがんばるのかを示さないの と同じだ。

社会に目を向けると、こうしたスローガンを唱えるだけの企業や組織が意外に多いことに改めて気付く。武田斉紀氏の著書『行きたくなる会社の つくり方』に、その典型例と言える話があった。たいていの老人ホームが「人権を尊重する」といった理念を掲げるが、人権を尊重するとは具体的にどういうこ とかを定義していないところが多く、人によってその判断基準が異なる、といった内容である。

●気合でビジネスはできない

次に、「お客様を第一に考える」という文言は、具体的な仕事の進め方(ビジネスプロセス)にブレークダウンされていない。このため、組織と しての力になりにくい。経営者から「お客様のことを第一に考えてがんばろう」と言われても、仕事のプロセスをどう変えるのか、どのようにがんばるのかが分 からなければ、社員は行動できない。

例えば、喫茶店の店員がオーナーから「気合でコーヒーをおいしくいれろ」と言われても、それだけでは無理だ。豆の調達から保存方法、挽き方、いれ方、器の準備など、具体的なプロセスをはっきりさせない限り、おいしいコーヒーができるのは奇跡を待つしかなくなる。
最後に、「お客様を第一に考える」という視線は、実はお客様の立場には立っておらず、お客様の目線で物事を見てもいない。「企業の立場で、お客様のことを考える」と言っているにすぎないからだ。

企業は、お客様が企業そのもの、あるいはその企業の商品を見てどう感じているかについて、知る努力をしなければならない。お客様のことを第一に考えるのではなく、お客様の立場でお客様が「感じていること」を第一に考える必要があるわけだ。

●お客様の「購買動機」を知る

では、お客様の立場で戦略を考えるには、どうしたらいいのか。最大のポイントは、お客様の購買動機をつかむことにあると思う。「競合商品が 数あるなかで、お客様はなぜ当社の商品を選んでくれたのか」「どんな気持ちで商品を選んでくれたのか」といったことを知るのがスタートだ。

商品の価格や品質、機能といった「価値」に大きな差があれば、たいていのお客様は価値の高い商品を選ぶ。だが、商品の価値に大差がなければ、お客様はそれを購入するときに感じる「経験価値」(カスタマーエクスペリエンス)が「いい感じ」の商品を選ぶと言われている。

極端な言い方かもしれないが、「ばばシャツ」は買わないけれども「ヒートテック」は買う。あるいは、「2割引」では買わないが、「20% キャッシュバック」なら進んで買う、といったことが、「いい感じ」のカスタマーエクスペリエンスに基づく買い物の好例ではないだろうか。

●「いい感じ」を追求しよう

「いい感じ」というのは、商品を選んだり比べたりしているときの感覚である。その感覚は、大きく二つのジャンルに分けられると思う。「損はしていない」「他の人の選択とそん色がない」といった感覚的なジャンルと、「顧客対応のスピードが速い」「手続きが正確」「愛想がいい」といった客観的な ジャンルである。このうち後者については、ビジネスプロセスの巧拙に左右される。

筆者が身を置く損害保険業界は、ビジネスプロセスがカスタマーエクスペリエンスを左右する業界の典型だ。その証拠が、お客様から寄せられる 苦情である。苦情を整理すると、「保険商品に対する説明が十分でない」「満期が近いのに、タイムリーに来てくれない」「事故処理の状況の説明が不十分」などが90%を超えている。これらは、いわばビジネスプロセスに関する苦情である。一方で、商品の内容に対する苦情は、全体の9%にも満たない。

「商品の品質がいい」と企業側が一人で勝手に自慢してみても、売れる保証はない。商品そのものの価値で競合他社に差を付けるのが難しい今の時代は、商品の購買動機を知り、お客様のカスタマーエクスペリエンスを高めないと、商品は売れない。

お客様の立場で戦略を考えるには、ほかにも重要な点がある。このテーマについて、次回も引き続き考えてみたい。

スタッフ